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さぁ、お待たせしました! 「おーい、誰かいないのかぁ?」 静戒は現場の部屋入り口の警官に手帳を見せ室内に入りながら言った。 「何だ、騒々しい……」 本当に迷惑そうに現場の奥から出てきたのは大村と同じくらいの歳の男だった。 くたびれたスーツのシワに、白髪交じりの髪が多少年を上に演出しているように見える。 「あんたがこの件の所轄責任者か?」 「だったら何だ?」 「本庁捜一だ」 「本店だぁ?捜査本部長も管理補佐官も何も言ってなかったぜ。このヤマはウチで片付けろって殆ど何もせずに帰っちまったがな」 「なるほどな……」 どういうコトだ?捜査本部の本庁の人間は捜査に殆ど関わらない。しかし、刑事部長は早期解決を……。一瞬静戒はそう思ったが、一先ず頷くと本題に入った。 「今更本店が何の用だ?」 「ああ、すまねぇな。ちょっと捜査資料と現場を見せてもらいたくてな」 「現場はさておき、資料は本店にもあるだろうが」 この刑事はよほど静戒を――と、言うよりは本庁を――毛嫌いしているのか、ひたすらに煙たがっている。 もっとも、先の静戒の言ったとおり、所轄と本庁の確執は警視庁管内にかかわらず何処の都道府県でもよくある話だ。 「まぁ、そう言うなよ。俺だって別に好きこのんでこんな所まで来た訳じゃねぇんだからよぉ。本庁でも爪弾きにしれちまってな、仕方なく一から自分でやってんだよ」 「お前の都合など知るか………まぁ、捜査資料ならウチの署の本部にある。勝手に見ろよ」 「あぁ、そうするここを見終わったらな」 「好きにしろ。俺はもう戻る」 「分かった………っと、あんた名前は?」 「人に聞くならテメェから名乗りな」 お互い口が悪い。しかし、静戒は男の言葉に気を悪くした様子もなく、悪かったな。と、言うと名刺を差し出した。 「静戒だ」 「名刺?」 「魔除けになるぜ、持ってな。で、あんたは?」 「本城(ほんじょう)だ……なるほど。爪弾きにされるわけだ。占い師か」 静戒の名刺を両手で破きながら薄ら笑いを浮かべ男――本城洋一(――よういち)は言い、部屋を出て行った。 「ったく、魔除けになるって言ってるのによぉ」 言いながら静戒がパチンッと指を鳴らすと破り捨てられた名刺は元に戻り、浮かび上がると静戒の手の中に収まった。 「まぁ、いいけどな。さて、中、見せてもらうかな」 室内はまぁ、何処に出もあるような事務所だった。 入り口の壁には指名手配書が貼られ、そこを通った奥にスチール製の事務デスクが一対。 その前に来客時に使うであろう机にソファが置かれている。 デスクの上には電話にテレビ。机には灰皿。 壁沿いに置かれている棚には幾つものスクラップ帳にファイル。何らかの専門書が並べられていた。 几帳面と言うほどではないにしろ、キチンと片付けられている室内。 特別争ったような後もなく、資料棚の前に張られている遺体位置を表すビニールテープだけが違和感を放っている。 「さってと、」 ざっと室内を見回した静戒はソファに腰掛けると、名刺入れから先ほど本城に渡した物と同じ名刺を取り出した。一点違うのは裏書きに飛鳥古墳などで見られる四神が描かれていることだ。 それを机の中央に置くと、そっと指で北西東南北の順になぞる。 「四士、候宗(しし、こうそう)」 声にならない息だけでそう呟くと静戒は目を閉じた。 数分後、目を開けると、名刺を手に遺体があった場所まで進む。 その周囲を改めて見回す。 「コレ、だな……」 言って静戒が視線を送ったのは遺体のちょうど右手に当たる部分だった。 「何か持ってたってコトか……?」 勿論、現場保存はされているが、遺留品や痕跡の鑑定のために室内に置かれていた物はある程度応手されている。 本来ならばファイルなども被害者が弁護士という職業柄全てなくなっていてもいいはずなのだが……まぁ、もっとも既に中身は写し終えて現場を極力元の状他にしておきたいという捜査本部の方針かもしれない。 そう思うと、別段気にすることでもない。 今静戒が気になるのは被害者が右手に何を持っていたかだ。 「しゃーなしだな……新宿西署に顔を出すか」 言葉通り、本当に仕方がないと言った面持ちで静戒は名刺を名刺入れに戻すと部屋を後にした。 「あ、」 ビルを出たところで、バイクに跨り、自室の方も見ておけばよかったと思ったが、事件現場はそこだけとのことだし、何よりもこれから所轄に行くのだから情報はそっちで得られるだろう。 そう考え直し、エンジンをかけた。 警視庁新宿西署刑事課課長の本城は捜査本部となっている会議室で一人腕組みをして考えていた。 先ほど会った本庁の刑事。超常現象対策室………初戦は賑やかしの色もの部署だと思っていたが、殺人事件に関わってくるところを見ると、捜査一課に設置されたのが決して巫山戯てではない。そればかりか、事件発生から僅か三日のヤマを改めて捜査している。 迷宮入りした事件の再捜査を資料課や窓際部署の刑事が再捜査することはある。 もしくは数ヶ月経っても進展を見せないヤマについては見方を変えようと捜査員が変わることはある。 それが、僅か三日だぞ。 確かに、早期解決に越したことはない。しかし……そもそも、本庁からの応援など聞いていない。 あの静戒とか言う刑事が勝手にやっていることか。いや、ならばわざわざ大っぴらに動くことはない。 組織に逆らった警察官は下手な暴力団よりも後味の悪い辞めさせられ方をする。 曲がりなりにも本庁の刑事がそんなことを分かっていないはずがない。 ならば、本庁はこの事件に関して何らかの情報を隠しているのではないか……。 本城が捜査資料に改めて目を通していると扉を開く音が聞こえた。 「ども、本庁のものですけど」 脳天気な声を上げて入って来たのは先ほどの刑事、静戒龍だった。 「よぉ……っと、本城さん、でしたっけ?さっきは失礼しましたね。まさか、課長さんがいらしていたとは」 所轄の責任者かと確認しておきながら白々しい……。 そうは思ったが、何も余計な波風を立てることはない。 「いや、こちらこそ悪かった。それで、何をしに?」 「何をって、さっきも言ったじゃないですか。捜査資料を見せてもらいにね」 僅かずつながら本編は進んでいます。 では。 PR |
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