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【2025/03/29 05:49 】 |
心霊捜査官静戒龍 一章捜査-3失態

一章もそろそろ大詰め
ま、まだ続きますけどね。
 


新宿西署を出た静戒はバイクを飛ばして埼玉県に向かっていた。
目的地は遠藤の実家だ。
新聞と新宿西署で遠藤の葬儀予定を確認し、まだ火葬されていないことを願って速度を上げる。
司法解剖は終わり、縫い合わされた遺体は遺族が既に引き取った後だった。
霊安室に安置されていれば話が早かったのだが、今更仕方ない。
「……あと一時間か……」
首都高に入って蛇行しながらすり抜け、危険運転スレスレの走りをしながら静戒は呟いた。
火葬は午後四時だという。
新宿西署を出たのがおよそ三時半。
時間が夕方だけに必要以上に混んでいる。
「まぁ、最悪間に合わなかったらソレまでだが……」
――燃やしちまえばいいじゃねぇかよ
半ば諦めた静戒の言葉に、何者かがそう応えた。
「誰だ……」
一瞬ブレーキに手がかかったが、流石にこういった不可思議現象には慣れている。
減速することなく応える。が、
この忙しいときに……。
「燃やせって、何をだ?」
――何を?判ってるだろ。街をだよ。何もなくなったらせいせい走れる
「寝言はいらねぇよ。ってか、テメェ、誰だ?」
――さぁてな
その後、声は聞こえなくなった。
何だったんだ?
勿論、今度は応える者は誰もいない。
 
埼玉県春日部市栄町。
その一角に遠藤の実家があった。
忌中の札の掲げられた家屋に出入りする喪服姿の老若男女。
静戒が着いたときには既に火葬は終わり、遺灰の墓地への納骨も済んだ後だった。
「ッチ、やっぱ間に合わなかったか」
呟くと、ヘルメットを脱ぐ。
瞬間、それまでの濃紺のスーツが一瞬で黒い喪服に変わった。
「こういう時、この力は便利だよな」
静戒が行ったのは誰しもが必ず持っている霊感に働きかける作業。
人間に限らず、生きている者には何らかの霊的力がある。霊能師との差はそれが強いか弱いかだけだ。
つまり、どんなにその力が弱い相手にも認識できるほど強力な霊力を発すればそれは目に映ることになる。
解りやすい例を挙げるなら、視力の殆ど無い人にも模造紙いっぱいに一文字書けば読み取ることができるだろう。
誇大に物事を見せる。つまりはそう言うことを静戒はやっている。なので、実際に着ている服はそれまでと同じ濃紺のスーツだ。
「さてっと、」
呟きながら受付に行き、多少迷ったが、仕事関係の箇所に記帳し、香典を出した。
 
門を通り、中に入る。
「こりゃまた……」
相当な金持ちだなぁ。と、言う言葉を飲み込むと歩みを進める。
外側からは幾つかの家が密集しているように見えたそれが全て遠藤家の敷地だったのだ。
枯山水を魅せる庭。平屋ながら十以上も部屋があるであろう旧家。
元々この辺りを一様に仕切っていたらであろうことが伺えた。
「なるほど、これほどとなれば寺での葬式もしなくていいな」
「まったくですねぇ……」
静戒の言葉に応える者があったことに、一瞬たじろぐ。
「……っと、失礼。私、こういう者です」
言うと、言葉の主の男は名刺を差し出した。
“神取(かんどり)コーポレーション 取締役専務 埜田 克也(のだ かつや)”
名刺にはそう書かれていた。
「あ、済みません、あいにく名刺を切らしてしまって。私は静戒と言います。公務員です」
内ポケットから探す様子を見せながら静戒は言う。
「いえいえ、お気になさらず、遠藤先生は官庁にもお知り合いが多くいたことは存じております」
「そう、ですね……」
「では、私はこれで」
言うと、男――埜田は静戒に背を向け、遠藤邸を出て行った。
「何なんだ、アイツは?」
 
 
静戒が遠藤邸に着いた頃、捜査本部では動きがあった。
「警視、面白いことが解りました」
飛び込んでくるなりその刑事は言った。
「何だ?」
応えるのは本条だ。
「被害者、相当悪どく設けていたみたいですよ」
「ほぉ」
「紅永会(こうえいかい)と繋がりがありました」
「暴力団とか」
紅永会というのは東京では幾つもある暴力団組織の一つでしかないが、埼玉では有名なそこそこ大きな組織だ。
表だった仕事だけでも金融や各種風俗店は勿論、スーパーマーケットやファミリーレストランまで展開している。
もっとも、それらを経営しているは組織から派生した所謂舎弟企業で、暴力団の傘下だと知っている一般人の方が少ない。僅かに知っている人々もそこがあるからこその働き口や経済効果を一切合切無視して国に訴えるべきだと思っている人はいない。
その為に、表でも裏でも成長している組織なのである、
「しかしまぁ、あそこは法に触れるようなことは表だってやってはいないだろう。大人しい方だ」
本条も紅永会の動きは知っているのだろう。
「それがですねぇ、その表じゃない方で、被害者は関わっていまして」
「と、言うと?」
「紅永会の舎弟企業で神取コーポレーションと繋がりがあったようです」
「ほぉ。つまりはその企業はそれなりのことをやってるってことだな」
「はい」
 
 
焼香をしながら静戒は唇だけを動かして何かを唱えた。
本来合唱するであろう手の右人差し指と中指を絡めて。
「………」
遺族に会釈すると、遠藤邸を後にし、捜査本部に向かってバイクを飛ばした。
「神取、か……」
 
 
「ただいまっと、本城さんいますか?」
「……貴様、確か本店の静戒とか言ったな」
「そんな睨まないでくださいよ。せっかく面白いネタ掴んできたんですから」
言いながら電子版の前に立つ。
「って、アレ?ガイシャと紅永会の関係、掴んでたんですか?」
「所轄署をなめてるのか?」
「いえいえ、そんなまさか。しかし、葬儀にまでくるとは被害者はよほど紅永会の中に入り込んでたんですねぇ」
「葬儀まで?」
「ええ、さっき会いましたよ。取締役ってのに」
言うと、渡された名刺を取り出す静戒。
「お前、コレ……」
「はい?」
名刺を改めて目にする。
途端!
それは静戒の手の中で勢いよく着火し、数秒後には消し炭になった。
「この反応は、探知機、だな」
「………まさか………」
普段の静戒であれば、そんなものに気づかないはずはなかった。
それが、霊能関係であればなおさらだ。
勿論、言った本城にはそれがオカルトのソレだという確証はないだろう。しかし、再生したらデータが破壊される類の各種メモリーは幾つも見ている。
捜査本部で取り出した途端の炎上はまさしくその類を連想させる。
「霊能がどうのう言っても、所詮捜査員としては二流か……」
捨て台詞とともに、数人の捜査員を伴って部屋を後にする本城。
 
「俺が?こんな初歩的なミスを………?」
自問する静戒は自らのことが信じられない様で火傷を負った右手を見つめた。

さて、そろそろ戦闘パートを書きたくなってきたなぁ。
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【2011/05/28 18:30 】 | 小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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